ミュージカル「夢のみずうみ村」

夢のみずうみ村の関係者、職員はもとよりですが、ミュージカル「夢のみずうみ村」をご存じの方は、ずいぶんと少なくなりました。というより、ご存じない方が大半でしょう。開設初期の職員7人衆すらも知らないと思います。NPO法人「夢の湖舎」を設立しようとする前の時期の試みでした。当時のワープロフロッピー(10cm四方の薄い保存シート:知らない方も多いと思うので注釈入れました)をCD化し残しておいたものを偶然発見したのです。懐かしくなり、ここに掲載いたします。

 私が、山口リハビリテーション病院で作業療法士として仕事を始めたころ、昭和62年(1987年)のころの話です。『たまり場を作ろう』という、私が訓練を担当させていただいた脳性麻痺の3人の女性の茶飲み話から、夢のみずうみ村を作ろうと衝動的に思いついたのでした。脳性麻痺の子どもたちとかかわっていた親の会「ラ・ベルヴィ」との出会い。施設づくりが動き出したそのしょっぱなの衝動からでした。夢のみずうみ村建設運動を広げるために、メンバー総動員でミュージカルをやろうと私が言い出し動いたのでした。 その台本原稿が見つかったのです。私が書いたものですが、一度も上演されませんでした。練習のみを少し行った程度で埋もってしまった原稿でした。それが、今、陽の目を見たのです。ただ、ただ、懐かしいのです。脚本 演出は、私です。自称物書き。中高校時代から、脚本を書き、演出し、4本の芝居実績をを持っている身ではありました。                    

 メンバーの面々皆さんが、よくぞ、私の思いについてくださったなあと思います。ミュージカルですから、作曲をお願いした山口リハビリ病院の長井さんにも、曲作りと練習にお手伝いいただきました。懐かしいですねえ。
 役者では、お亡くなりになられて相当過ぎましたが、ある一人の山口リハビリ病院時代の患者さんで、脊髄損傷であったE・Nさんのことを思い出します。全介助で、最初リハビリを開始した方です。チルトテーブル(電動起立台)にて、15分間(最初15度から徐々に角度を上げ、最終的に90度立位保持するリハビリです)を、チアノーゼが起きるか起きないかとヒヤヒヤしながら、ご本人と共同し相談しからだと呼吸状態を確かめながらリハビリをしてきた方でした。彼は頑張り、電動車いすに全介助で移譲し、自由にあちこち動き回るまで回復されました。退院され、自宅で頑張られました。シャイでしたが、ミュージカルはやりたいとおっしゃり、頑張りました。彼の忘れられない言葉が、20数年以上もたっても思い出すのです。
 「セリフは喋れるけど、歌おうとすると息が止まり失神する!」と。天国で笑っておられると思います。

 他の障がい者の方々、ボランティアの方々など、よく、こんな私の、夢の湖村を作りたいという思い付きのミュージカル上演活動のチャレンジについてきていただいたなあと思います。

 この脚本が出てきて、こうして、ブログに掲載させていただくことを我が人生の喜びの一つとして感じ入っています。読み流し、見流していただければ幸甚です。

ミュージカル「夢のみずうみ村」

夢のみずうみ村というものを自分たちのものにするということと、多くの方に啓蒙するという意味を込めてミュージカルをやろうと突然藤原が言い放ったのです。それが未完成の台本でありながら、現実に提示され、セリフ入りの歌、まさにミュージカルを練習し始めたのですから今から思えば無謀でした。現在の夢のみずうみの会員の中にも、このミュージカルの練習にかり出された方があります。それがきっかけになったか否かは分かりませんが、メンバー間に少しずつ亀裂が生じ、結果、夢のみずうみ活動は分裂ということになったのです。思いやりのあるいい仲間でありながら以外と組織的に運動していく難しさを体感した我が村創世記の歴史です。

ここで、一気に、そのときのミュージカル「夢のみずうみ村」の台本を掲載します。いつの日か上演できる日があるのでしょうか

ミュージカル「夢のみずうみ村」台本

会場入り口に 看板 と 「お知らせ」が掲示してある。

┌──────────────────────┐

│      お 知 ら せ                   │

│ かたち星共和国へ入国される皆様へ          │

│                                             │

│  入国される方はパスポートをお見せ下さい。 │

│  パスポートのうらに                       │

│  ○△□のうち、                           │

│  あなたが一番すきな かたち を           │

│  一つだけかいて下さい。                   │

│  かたち が 描いてない方は               │

│  入国はできません。                       │

│                                             │

│    かたち星共和国入国管理事務所         │

└──────────────────────┘

会場入り口ドアにかたち王国の職員が、入場者の許可証の確認をする。

(受付係りも入り口業務は全員入国係員の服装で観客を迎える。)

場内 一斉に暗転 真っ暗

突然、電話呼び鈴 3回響く。

受話器をとる音

「はい こちらは 夢の湖村 村役場です。 ただいま、村民一人残らず ミュージカルに出演しています。御用のある方は、ピーという信号音の後にメッセージをお願いします。」

(ピー音)

第 1 幕 1 景    ロ グ ハ ウ ス   ラ ベ ル ビ ィ

舞台中央高台にログハウスの骨組み。「ラベルビィ」という大きい看板が骨組みについている。

「有限会社 夢の湖舎敷地」「立ち入り自由」の看板。

ログハウス脇から滑り台。大きい立て看板。「まだ途中です。完成するまで絶対にここを滑ってはいけません。」

♪♭ ラベルビィ

ラベルビィ   素敵な人生

ラベルビィ   素敵な人生

生まれた 命  生まれた絆(きずな)

生きている 私  生きている あなた

みんなで一つ    すてきな人生

それぞれ一つ    すてきな人生

いいな いいな いいな

みんなそれぞれ 違っていいな

ラベルビィ   素敵な人生

ラベルビィ   素敵な仲間

上手に大きなログハウス。下手は、工事用のテント、張られている。

滑り台の滑り口が中央に目立つ。

「できあがるまで、ぜったい すべってはいけません」の大看板が滑り口に立てかけてある。

ログハウスの骨組み合わせを行う二人。 材木を運ぶもの、木にノミをあてるもの、セメントをといでいるもの、カーテンを切ったり、テーブルを作ったりしているものいろいろ。 忙しく動いて作業

お茶とケーキを持ってログハウスより出てくる アイ子

作業しながら、食べ物に目が向き、仕事が手に着かぬ男連中

無視する アイ子

チャイム。( 休憩の合図 )

チャイムと同時に、次郎、三郎、四郎、五郎、ケーキに向かう。

遅れて ゆっくり花子、桃子、アイ子のもとへ。

太郎だけ、近寄らず、滑り台のスタート部分にしゃがんで滑る先を見下ろしている。

ケーキを口にしながら次郎太郎に気づき、滑り台に近づいて太郎に声かけ。

太郎ぶつぶつ言っているが次郎に聞き取れない。

何度か聞き返す次郎。三郎も次郎太郎の会話にケーキお茶を飲みつつ近づく。

太郎の声がはっきり次郎に届く

太 郎   いつになったら この滑り台、 すべれるだろうな。

次 郎    永遠に滑れないよ。

三 郎      作っても滑れない滑り台を 作っているのか ?  俺達・・・・

アイ子   「世界一 長い滑り台をこの村につくろう」。  みんなの合い言葉でしょ。

三 郎      作ったところで、安全かどうか試しに滑って見るべきだよ、なあ。

次 郎      そうだ。作っている俺達ぐらいは 、滑っても バチはあたんねえ。

花 子      当たるよーだ。

四 郎      太郎 ケーキなくなるぞ。

太郎  見向きもしない。

三 郎      あいつ すべる気だよ。さっきから、滑りたい滑りたいってぶつぶつ言ってるよ。

桃 子      太郎。おいで。ケーキ食べられちゃうよ。

太郎の動きを気にし出したもの、全然気にしないものに分かれて休憩時間は過ぎている。

四 郎   俺たちが今作っている滑り台さあ  去年作ったスタート百メートル部分とつなぎあわせたら、どのくらいの長さになるだろう ? 相当長いと思うけどな

五 郎   三百メートルは いったな。

三 郎      そりゃあ言い過ぎだよ。二百五十メートルぐらいさ。

桃 子   二百五十メートル ? 結構長くなったねえ。

五 郎      今、作っているスタートのところが結構長いからねえ。

次 郎   ♪♭ 大きなクリの木の下で ♪♭ まで 一気につながるんだぜ。

花 子      クリの木のあたりは  この間の台風で崩れたから、あそこあたりから下に作るのが大変になるねえ。

アイ子   とにかく 「完成するまで  絶対滑らない滑り台」 これは夢の湖村の議会で決ったことでしょ。

しゃがんでいた太郎  突然立ち上がる。

太 郎     滑って見たいよーう。

桃 子      太郎。ケーキなくなるよ。早くおいで。

太 郎      この滑り台の先には何があるのだ ?

一同 太郎に注目。

四 郎      こっちにこい、太郎。おまえだけ勝手に滑れるはずないぞ。

三 郎   滑ったら 夢の湖村憲法違反第1号だ。

五 郎      夢の湖村憲法

第1条   一人では何もできない。しかし、まず一人が初めなければならない。

第2条   一人はみんなのために。みんなは一つ。みんなで一つ。

第3条  足を引っ張らず 手を引っ張ろう。

第4条  くどくど言わず やって見よう。

第5条  命の限り みんなで生きよう。

三 郎      よく覚えているねえ。

太 郎      第1条、「 一人では何もできない。しかし、まず一人が始めなければならない。」

僕は、その 初めの一人になる。

太郎 いきなり、滑り台から滑り降り消える。

悲鳴など

暗    転

かたち王国の歌 響く

スポット

かたち王国兵隊  上手幕前より一列行進。下手に消える。

♪♭  かたち王国の歌

まんまる さんかく しかく

みんな違う  それぞれ違う

まん丸  優しい   微笑みマーク

さんかく スマート  鋭く強い

しかく  がっちり  どっしり座る

まんまる さんかく しかく

みんな違う  それぞれ違う

みんな違って  みんないい

違うからステキ みんないい

みんなで仲良く かたちの王国

赤色スポット回転点滅

チャイムの音、

陰のアナウンサー  「臨時ニュースをお知らせします。かたち王国 国営放送 臨時ニュースをお知らせします。明日の大統領選挙に立候補している

まんまる王国国王、まんまる王が、秘密警察に逮捕されました。繰り返します。明日行われる予定のかたち王国大統領選挙に立候補しているまんまる王国国王、まんまる王が、国家秘密警察に逮捕されました。秘密警察署前から、二重丸特派員がお伝えします。二重丸さん、聞こえますか。」

二重丸      「はい、国家秘密警察前におります、二重丸です。先ほど秘密警察長官が緊急記者会見を致しました。その声をお聞き下さい。」

長官録音声    かたち王国大統領選挙候補者まんまる王を、選挙前でありますが緊急に逮捕いたしました。まん丸容疑者は、夢の湖の水を、無断で 銀河系のある星に売り、選挙資金にした疑いにより緊急逮捕した。本人は容疑を否定しているが我々は重要な証拠を握っており、逮捕には確信を持っている。以上。

記者達の矢継ぎ早の質問の録音  「どこの星ですか」「証拠はあるのですか」

「明日の選挙はどうなるのですか」「銀河系のある星では分かりません」

「どうしてはっきり星の名前をいえないのですか」等。

録音カット。

陰のアナウンサー    二重丸さん。夢の湖の水を銀河系のどの星に売っていたかわかったそうですね。

二重丸        はい、どうやら、地球と言う星だそうです。

陰のアナウンサー     ち・きゅ・う  ?  そんな星が銀河系にあるのですかねえ。

二重丸      ええ。銀河系の一番はずれに、水星、金星、土星、とかいろいろある内の一つだそうです。

陰のアナウンサー    へえ。そんな銀河系のはずれに幾つも星があったのですか。

二重丸 ・・・・水金地火木土天海冥と略して呼ぶそうです。水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星 と命名されているという情報が秘密警察から発表されました。

陰のアナウンサー   やはり 銀河系はひろいのですねえ。

しかいs、どうやって夢の湖の水をその地球とやらの星に持っていくことができたのですか?

二重丸        かたち王国科学アカデミーご自慢のタイムカプセルです。

陰のアナウンサー   そのタイムカプセルは、未完成だったはずでしょ。過去や未来に移動することができる能力は持っているけど、確実に予定した時代や場所に行けないって聴いていますよ

二重丸        私もそう聞いておりますが、どうもまん丸王はそれを勝手に使ったらしいですよ。

陰のアナウンサー   科学アカデミーと秘密警察の陰謀ということは感じませんか。第一、まんまる王がそういう難しい機械を操作できる能力がないと思うのですがねえ。

二重丸        もう一つ重大ニュースがあります。どうやら地球からやってきたスパイを秘密警察がつかまえたもようです。

陰のアナウンサー   えっつ! 地球からスパイがやってきた?!

二重丸        そうです。地球からスパイです。まもなく、午前十一時から  住民裁判をやるようです。村の有線放送でも、まもなく臨時ニュースを発表し、住民裁判の知らせもあわせてするようです。

陰のアナウンサー     住民裁判をやるとは大変なことになりましたねえ。それでは、明日の大統領選挙は中止ですか ? 選挙もやるし、住民裁判もやるという離れ業を国民に要求するのですかねえ

二重丸        わかりません。住民裁判の中ではっきりすると思います。夢の湖村始まって以来の歴史的危機ですので住民裁判に多くの村民が集まって欲しいと思います。大統領選挙よりまず住民裁判でしょう。

陰のアナウンサー     もう一度念を押しますが、明日の大統領選挙を前にしたインチキ・デマ報道ということではないですね。

二重丸        間違いありません。確かなところから取材した情報です。

陰のアナウンサー     わかりました。秘密警察前から二重丸記者の報告でした。

地響き、騒音

かたち王国の歌 響く

第 2 幕          住 民 裁 判

かたち王国兵隊  下手幕前より一列行進。上手に向かう。

やや兵隊前進したところで 幕開く

♪♭  かたち王国の歌

まんまる さんかく しかく

みんな違う  それぞれ違う

まん丸  優しい   微笑みマーク

さんかく スマート  鋭く強い

しかく  がっちり  どっしり座る

まんまる さんかく しかく

みんな違う  それぞれ違う

みんな違って  みんないい

違うからステキ みんないい

みんなで仲良く かたちの王国

縄が掛けられたまん丸王が、あぐら座で さらし者になっている。

両脇に四角兵1・2が立つ。

中央台の上に、まんまる王、トライ、太郎、縄を掛けられて さらしもの。

周囲を、三角王、四角王、それぞれの国の住民取り囲む。聴衆多数。

マイクを片手の長官 拍手を制するように ゆっくり壇上へあがる。

客席にもライト当たる

長官、客席を確認、見渡す。

長   官 たくさんの住民の方々が  歴史的な住民裁判にお集まりいただき感謝感激。

夢の湖村の皆さんがいかに 正義ということについて敏感であるか よくわかりました。

では、早速住民裁判を始めましょう。

ここにいる3人の犯した罪について、皆さんよーくお聞き下さい。

三角人A・四角人A  舞台中央に進み出る。

三角人A   被告人3名の名前を呼ぶ。呼ばれたら前に出なさい。

三名、名前を呼ばれても返事をせず座ったままなので、そばに付いている警護人が強制的に立たせ、前方に引き出す。

四角人A 長い巻紙を読み始める。

四角人A   住民裁判被告人 第1号 まんまる王国国王 本名 まん まるお(ちなみに かたち王国大統領選挙に立候補しています)。住所 まん丸王国まんまる市まん丸町 まん丸1丁目です。

住民裁判被告人 第2号   名前 トライ 。住所 まん丸王国まんまる市まん丸町 まん丸2丁目 門まがってすぐ です。

住民裁判被告人 第3号  地球人 その名    太郎と本人が名乗りました

住所はよく分かりません

まんまる王、太郎は前に速やかに出るがトライは少し暴れるので 四角兵1

2に両脇を抱えて連れ出される。

四角人 A このもの共3名の罪状を申し述べる。このもの達は、次の3つの大罪を犯した。

一つ、夢の湖の秘密タイムカプセルを勝手に使い、宇宙の果ての星、地球から、スパイを呼び寄せた

二つ、夢の湖の水を地球に売り渡し、地球に、この星とまったく同じ夢の湖王国をつくろうとした。

三つ、夢の湖王国が完成したら、このかたち星雲はもとより銀河系の全ての星を乗っ取るという恐ろしい計画をした。以上。

長   官  住民の皆さんお聞きになりましたね。おそろしいことが起きるところでした。

まんまる王 皆さん、これは この長官の作り話だ。嘘だ。罠だ。大統領選挙で私を当選させまいとしているのだ。いくら違うって言っても信用してくれない。陰謀だ。

ト ラ イ この男のいうことを信じてはいけません。おかしい。何もかもおかしい。

四 角 王 罠かどうか、おかしいかどうか、はっきりしてもらおう。大統領選挙には私も、この三角王も立候補し正々堂々と戦ってきたはずだ。最後になってとんでもないことだ。

三 角 王 そうだ。本当に、夢の湖の水を、地球とやらの星に売り渡したとしたら、大統領候補にあるまじき行為だ。

まんまる王 四角王、三角王。あなた方も、私を疑うのか。

ト ラ イ  この長官が大統領になりたいのさ。だから人気抜群のまんまる王を罠にはめたんだ。

長   官  ほざくな小僧!

ト ラ イ  俺だって さっき牢屋で  この太郎って子に初めて会ったのだよ。なぜ俺がつかまるのだ? どうしてこんな馬鹿な裁判が行われるのだ。

長   官 証拠があるのです、皆さん。証拠だ、証拠。証拠をお見せしよう。スライド準備

スライド照射 (夢の湖舎のパンフレット)

写った瞬間、住民からどよめき

長   官 地球からきたスパイが持っていた一枚の図面です。住民の皆さん、どうですか。この図面。地球からやってきた このスパイがポケットに隠し持っていたのですぞ。

四 角 王 これは、夢の湖ステーションの地図じゃあないか。

長   官 そうです。我がかたち星雲の夢の湖ステーションの地図そのものです。

三 角 王 大統領の部屋の金庫にしまってあったはずだ。

長   官 そうです。鍵は、たった3つしかない。それを1つずつあなた方3人の王様がもっておられる。1つずつ合計3つの鍵しかないはずです。

だから、金庫の鍵を開けられるのはあなた方3人だけだ。3人の王様のうち誰かが地図を盗みだし、このスパイに渡したはずです。

ト ラ イ 合い鍵つくって もってるいよ こいつ (長官を顔で指す) 絶対隠して持ってるな

警備人A  うるさい!

太   郎 違います。これは僕の住んでいる山口県、いや、地球という星の日本という国の山口県にある僕たちの住んでいる夢の湖村の未来図なんだ。

ここに広がっているのはラベンダー農園。ログハウスのレストランと、宿泊棟。このあたりからケイマンゴルフ場のコースになります。

三 角 王  待て。ケイマンゴルフ ?

どうして、ケイマンゴルフを知っているのだ。

太  郎    日本でも公認コースは少ないです。

夢の湖村では、自然を生かしたまま、ラベンダー農園の間を使って、公認コースを造っています。

四 角 王  この にょろにょろしたものは まさか 滑り台じゃあないだろうな。

太   郎 そうです。よくおわかりですね。ケイマンゴルフ場の脇を、日本一、いや世界一長い滑り台をこしらえています。ボランティアの人たちの労働奉仕でね。まだ全部は完成してないのです。

三 角 王  間違いない。この星を真似て、全くおなじに作っている。うり二つだ。この連中が情報を漏らしたに違いない。

四 角 王 まんまる王の様な人格者だった方が  どうしてスパイなんかと手をむすばれたのかね。

まんまる王、トライ、太郎の3人が一所懸命語ろうとするのを  やや遠巻きに見ている、長官、四角・三角王

太   郎 滑ってはいけない約束だったのです。 完成するまで絶対に滑ってはいけないよっていわれていたのです。わかっていたよ。でも滑ってみたかった 僕。

まんまる王  「滑り台を滑ってはならない掟」を君は破って滑ったわけだ。

太   郎  そうです。そうしたら今、ここにいる。訳の分からない変なところに・・・・

まんまる王 やはりそうだ。タイムカプセルが作動したのだ。君の国の滑り台と我が国の夢滑り台とがタイムカプセルでつながったのだ きっと。

太   郎 分かりません 何がなんだかさっぱり分からない

まんまる王 この国に、君の国、地球だったね

太   郎 ええ

まんまる王 全く同じ滑り台がこの国にあるのだよ。

太   郎 全く同じっていうことは、まだできあがっていない、未完成の滑り台?

まんまる王 そう、おそらく、一ミリも違わないで全く未完成のままできている滑り台さ。しかも、我々の「夢滑り台」も絶対に滑ってはいけない掟になっているんだよ。掟破りは宇宙蛍になるのだ。

太   郎 宇宙蛍?

ト ラ イ  星くずになっちまうってことさ。

警備人A  長官 時間が押しています。急いで裁判を進めてください

四 角 王  そうだ、長官。この連中が白か黒か早く住民の皆さんに尋ねた方がいい。

三 角 王  賛成。私もそう思います。この連中は秘密を知りすぎている。

太   郎 障害を持った人でも、身体の弱い人でも  強い人でも、誰でもいい。

みんなが、生きているって楽しいなあって感じられる健康村が夢の湖村なんだ。

ト ラ イ みんなが、生きてるって楽しいなあって感じる国。 それはこの星のことだよ。

誰もが生きていることを喜び健康に感謝する、生きてるって嬉しいなあって感じる国。 それがこのかたち王国だったはずだ。

太   郎 夢のみずうみ村とこの国は同じ感じの国なんだ

まんまる王 もしかしたら君の住む地球と かたち王国は 鏡のくにかもしれないね

トライ・太郎 鏡のくに?

まんまる王 鏡を見たことがあるだろう。鏡に移っているように全く同じということさ。

鏡に映っている自分は自分だろ。それと同じさ。死んだまんまる王国のじいから話しを聴いたことがある。この広い宇宙には全く同じ星があるのだってね。その星を 鏡星って言うのだそうだ

まんまる王 太郎 トライ の会話を無視して人民裁判が続く

警備人A  人民裁判を続けます。この3名を怪しいと思う方 拍手をどうぞ

パラパラっと拍手があるが周囲からにらまれて拍手が消える。

長   官  まさか他にも、協力者がいるのかな ?

怪しいことこの上ないのではなく、犯罪を犯したことは間違いないのですぞ

三 角 王 しかも、この連中は何も反省していない。勝手に喋りまくっている

四 角 王 何をいってもわからないみたいだ。

ト ラ イ  わかった ! 君の住んでいる地球の未来星が、この星なんだ。

太   郎  未来星 ?

まんまる王  そうだ。未来星だ。おまえが住んでいる地球の滑り台を滑ったらここに来たんだろ ?

太   郎  そうです。

ト ラ イ まんまる王様が言ってるようにタイムスリップしたんだ。

太   郎 タイムスリップ ?

ト ラ イ 君の住んでいた地球の、日本の、山口県の、夢の湖の滑り台と、このかたち星雲の「夢の湖ステーション」の「夢のすべりだい」が何かのパワーで繋がったのだ。

太   郎 「夢の湖ステーション」の「夢のすべりだい」 ?

長  官    おまえ達、そう簡単に秘密をぺらぺら喋ってもらっては困るよ。

滑ってはいけない滑り台を滑った。いま、この男は、地球の掟を破ってここにやってきたと自分で白状した。それが証拠だ。自分で掟を破ったとはっきり喋った。罪だ。犯罪だ

住民の皆さん。お聞きになった通りだ。掟を破ったと自分で白状したのだよ。

太 郎      ごめんなさい、約束を破ったことは謝るよ。でも僕はスパイなんかじゃあないよ。

住民からの声。「スパイだ」「夢の湖が狙われてる」「嘘発見テストをやれ」「嘘発見し件だ」「そうだそうだ」等。

まんまる王 きみ、太郎君 この連中を相手にしても疲れるだけさ

長   官 わかりました 皆さん。わかりました。 お静かに。

この男が嘘言っているかどうか。スパイかどうか。皆さんの前で検査しましょう。 この太郎なる地球人が嘘をいっていることがわかったらこの2人の罪もはっきりする。

よし。親愛なる部下諸君。これから、嘘発見テスト 名付けて 直角三角形描きテストをやろう。

直角三角形描きテスト 第1億2千3回目。準備開始。

舞台天井から、ボードが2枚降りる。墨と筆の用意。

太郎を逃さないようにするものなど。

♪♭   直角三角形描きテストの歌

三角形を知ってるかい

三角形は 線がみっつ 角もみっつ

直角三角形 正三角形 二等辺三角形

いろいろあるんだ 三角形

直角三角形 描いてよ

直角三角形 だよ

簡単さ。直角三角形描くのだよ。

それだけさ。それだけさ。

四角人 A 被告人、地球人、太郎に命じる。「直角三角形」を一つここにかきたまえ。

三角形を知ってるかい

三角形は 線がみっつ 角もみっつ

直角三角形 正三角形 二等辺三角形

いろいろあるんだ 三角形

直角三角形 描いてよ

直角三角形 だよ

簡単さ。直角三角形描くのだよ。

それだけさ。それだけさ。

たったそれだけで うそをついているか

はっきりするのだ

「直角三角形の歌」の間に、太郎が渋りながらも 紙に直角三角形を描く

三角人 A 嘘発見試験、直角三角形描きテスト、第1億2千3回目。結果発表。

太郎が描いたボードと、解答見本を同時に客席にみせる。

(太郎が描いたボード: 解答見本 省略します。)

一同 「ちがう」「やっぱり」「間違いだぞ」「スパイだ」「怪しい」などの声あがる。

長   官 結果が出ましたぞ皆さん。こいつはやはり嘘をいっている。スパイだ。

四 角 王 出たね。白黒がはっきりした。

三 角 王 住民の皆さんに 最終判断していただこうじゃあないかね。

まんまる王 何かの間違いだ。誰かが紙に溝を付けているのだ。ワナだ インチキだ

長   官 なんとでも騒ぐがいい もう、ここまで調査したらいいでしょう。

おい。   (四角人Aに指示)

四角人 A  では住民裁判に移らせていただきます。

有線放送や掲示板でご案内致しました「パスポート」をお持ちでしょうか。

入国管理事務所で、まる、三角、四角どれか好きなかたちを書かれましたか。

あれが、パスポートです。 持っていますか ? 持ってないと、ここからつまみ出されますよ。

四角人 B ではここにお集まりの住民の総数を数えます。かたち共和国野鳥の会の皆様

にお願いいたします。

かたち共和国野鳥の会員、双眼鏡をもって舞台前面に片膝立ちで並ぶ。

客席にライト。

四角人 B パスポートに四角を書いた方、それから四角王国の住民票をお持ちの方。高く上げてみて下さい。

パスポートをもって手を高くお上げ下さい。

観客のパスポートの理解を確認すること。理解がまずければ、再度、記入を確認し、手元に用意するよう促す。

かたち共和国野鳥の会員、カウンターをぱちぱち押し、数を四角人Aに報告。

三角人 B 分かりました、分かりました。次は、三角王国入国パスポートをお持ちの方。

パスポートに三角をお書きになった方々です。高々と上に上げて下さいませ。

かたち共和国野鳥の会員、カウンターをぱちぱち押し、数を四角人Aに報告。

三角人 B はいはい。ありがとう、よく分かりました。

丸 人 A では最後に、まんまる王国のパスポートを持っている方。お待ちどうさまでした。

はっきりとパスポートを高くお上げ下さい。はい、まんまるをパスポートに描いた方は ?

かたち共和国野鳥の会員、カウンターをぱちぱち押し、数を四角人Aに報告。

丸 人 A はい、パスポートや住民票をしまって下さって結構ですよ。

四角人 A  発表します。ここにお集まりの住民の人数は

四角王国人(     人)、三角王国人(    人)、まんまる王国人(     人)

総数 (      人)です。よって、この3名を罰するには 過半数の(     人)以上の賛成が必要です。

かたち共和国野鳥の会の皆様宜しくお願いいたします。

長   官 では、住民の皆さん。用意はよろしいですか。

この地球人が描いた直角三角形と、この直角三角形は同じだと思いますか、それとも違うと思いますか。

こっちとこっちが同じだと思う人。  ( …… )

かたち共和国野鳥の会員、カウンターをぱちぱち押し、数を四角人Aに報告。

長   官 こっちとこっちは違うと思う人。   ( …… )

かたち共和国野鳥の会員、カウンターをぱちぱち押し、数を四角人Aに報告。

四角人A  報告いたします。

同じと思う者  (    名)、違うと思うもの(     名)

よって、住民裁判の結果 有罪ということになりました。

太郎、ボードに走りよる。自分の描いたボードを横にする。

長   官 もう皆様おわかりですね。あきらかにこの男の描いた直角三角形と我が国の嘘発見かたち標本にある直角三角形と違っていましたよね。

太   郎 ほら、こうしたら、同じだよ。同じじゃあないか。

長   官 ほう、さすがだなあ。さすがだ。普通のものは、こうやって直角になっているところを下に描くよ。

しかし、さすがだなあ、君は。直角の部分を上に描いている。さすがだなあ、素晴らしいよ、君。

警備人A   (ハンマーをたたく) 人民裁判の結果発表

長   官   ではこの国の憲法に従ってこの3人を 宇宙に放り出し、星くずとすることに決定しました。

一同より、パラパラの拍手。「反対、反対」と叫ぶ、まんまる人B登場。

四角人C、三角人Bに取り押さえられる。

まんまるB  インチキだこの裁判はおかしいよ。数をきちんと数えろよ。反対意見の方が多かったはずだ。

まんまる人の住民数人を核に、そうだそうだの声と、その動きに反対する四角人のグループ。

中に入っておろおろする三角人のグループ。住民が割れ暴動の前触れ。

長   官  住民裁判終了だ。この3名を牢屋に入れよ。反対するものは全て牢屋だ。

警備人 A (ハンドマイクで)明日の大統領選挙は中止とする。大統領選挙は無期限延期とする。

住民暴動始まる。罵声。殴り合い。

長官、住民の中央でピストルを天井に向け発する。

銃声3発

住民静まる。

四角人A・三角人A・まんまる人A、それぞれ、まんまる王、トライ、太郎を捕まえて引き立てようとする。

トライ、手を放れて、長官のピストルを奪い、長官の東部にピストルを突きつける。

一同トライと長官に注目

ト ラ イ    騒ぐな。騒ぐな。静かにしろ。

騒がなかったらピストルは打たないよ。

まんまる王    ピストルを捨てなさい。そんなことをしても何も解決にならない。

ト ラ イ    どうしてこんなことになるんだよ。

長官。僕はスパイなんかじゃあない。

太郎をはなせ。まんまる王もはなせ。

四角人A・まんまる人A、それぞれ、まんまる王、太郎を放す。

太郎はさっと、トライの方へ行くが、まんまる王は動かない。

まんまる王    トライ。やめなさい。ピストルを返しなさい。

ト ラ イ    長官。あんたはどうして人を信用できないのだい。

長   官    私はこのかたち王国や夢ステーションを守るのが仕事だ。

夢滑り台を使って他の星の人間が進入したのだ。捕まえるのが私の使命だ。

ト ラ イ    スパイなんかじゃあないよ太郎は。

四 角 王   このかたち星雲は 我々が生まれるずっとずっと大昔から、夢の湖の水を全ての惑星に配って来た。

夢ステーションの 夢滑り台から、全ての惑星に 夢の湖の水が流れているから 全ての星の 全ての生き物が、大昔から夢を見ることができたのだ。

ト ラ イ    そんな話は、この星の人間なら誰でも知っていることだ。

三 角 王    聞けよ 人の話を !

人の話を聞けないような奴はろくでもない奴だ。

いいかい。この男は、我が夢ステーションの地図を持ち、

あろうことか、夢滑り台の水の流れに逆らってここに来たのだ。

夢の湖の流れは ものすごい勢いだよ。

人間がさかのぼって来れるはずはないはずだ。

夢トンネルを通って、本当にこの男が地球からやってきたというのなら

恐ろしいことだよ。起こってはならないことが起きたのだよ。

四 角 王  もしかしたら、夢の湖の勢いがなくなったからかもしれない。みずうみの水の勢いが弱くなったから逆流してここまで来れたのかもしれない。タイムカプセルなんかじゃない。みずうみの水がなくなったのだ。この男がこの国にやってきたという事実が何よりの証拠だ。

長    官  四角王様はよーくおわかりになったようだ。夢の湖の流れが停まったら、この星はお終いです。消えてなくなる。夢のみずうみの水は常に満杯でなければならないのです。きれいな澄んだみずでないといけないのです。

長   官  このスパイの汚い泥足を見ろよ。

夢の湖のきれいな水を汚したんだ。

夢を汚したんだよ。これだけでも罪だよ。

全宇宙の子ども達が 怖い夢ばかりをしばらく見るだろうよ。

ト ラ イ    この星は狂い始めている。大統領選挙することがいい例さ。

3人の王様がこれまで通り4年置きに大統領をすればいいじゃあないのか。

だまされないぞ。

狂ってきたんだ、人間が。

夢を見なくなったのは夢の湖のせいじゃあない。

太郎、トライ、長官を引き連れてじわりじわり、下手に移動する。

三 角 王    とにかく、長官を放なしなさい。話し合って地球に君を送り込もう。

この国の「夢滑り台」は全ての星に平等に夢の湖の水を配ってきた。

夢がタイムトンネルでつながることをおそれていた。

ト ラ イ  夢の湖の水が消えたら、人間は夢を見ない。そうしたら戦争になる。それは怖い。

この星に住むものみんな、わかっていることさ。

僕は地球に行ってくる。地球人が悪い奴か。戦争を起こす人間かどうか見てくるだけだ。

太郎。地球に行こう。夢ステーションの建物の中に、夢滑り台の入り口がある。行こう。

ト ラ イ    戻る気などないさ。

長   官    私は住民裁判の結果を尊重して、君たち3人を宇宙に追放する。それが僕の仕事だ。

ト ラ イ    望むところだよ。秘密警察署の中の牢屋に「夢滑り台」があるのがおかしいんだ。

太   郎    僕がこの星についたのは牢屋の中だったってわけ ?

ト ラ イ    多分ね。さあ、夢滑り台まで案内してくれよ。宇宙空間に放り出して俺達を星くずにしてくれ。

戦争を起こそうとした犯罪人だ。死刑にしろよ。

まんまる王    違うぞ、トライ。夢トンネルはそんな死刑執行台なんかじゃあない。

おまえだって知ってるだろ。

「滑っている間に願い事をすれば その夢がかなう滑り台。それが夢滑り台だ。

ト ラ イ    そうですよ。王様。僕は地球に行きたいって願い事をするんだ。

まんまる王    こんなかたちで夢なんかかなうはずがないぞ。見にくい心の持ち主に夢は生まれない。

ト ラ イ    まんまる王。待っていて下さい。僕は地球に行ってきます。そして戻ってきます。

三 角 王    住民裁判の結果は有罪だ。スパイ罪で死刑なのだ。

やめ信頼だ。スパイのような人間を信じるんだ。地球人「太郎」はいい奴だとトライが言った。

私はトライを信じている。

だから、太郎はスパイではない。

長 官      何というお粗末で、お人好しの王様なんだろう。まん丸王国の王様をよくぞやってきました

なあ。

人を信ずる?  結構なことだ。しかし、王様や、私のように国を守る長官をやっているよう

な者は、まず、人を見たら疑うというのが常識だ。

あなただって、必ず人を疑ってきたはずだ。

まん丸王    いいや。私はこれまで人を疑ったことはない。

長官        ほーう。人を疑ったことがない。

まん丸王    人の上に立つ者は人を疑ってはなりません。信頼するんだ。それが常識だ。

長  官    どうしても常識とおっしゃるんですか。いいだろう、いいだろう。

ならば、王様、こうしましょう。

夢の湖の地図がどうしてこの男の手に渡ったのか、きちんと我々に説明していただきたい。

証拠を見せてもらいましょうか。そうしたら、スパイだとか、まんまる王が手引きをしたと

か申しませんよ。

トライ      証拠は太郎だ。太郎の話を聞けばいいじゃあないか。

長  官    この男がスパイだというのに、スパイの言うことを信用しろと言うのがおかしいじゃあない

か。

太 郎      みなさん。地球の僕達が作ろうとしている者が考えていることがここでは実現してるんだ。

不思議だけど、夢が夢で終わらないように、・・・・・・、夢を実現させるために、努力してるん

だ。ただそれだけなんだ。地球に来てくれればすぐわかるよ。滑り台を作ったり、ログハウ

スを建てたり、お金がないからミュージカルをして宣伝したりしてるんだ。夢みたいなこ

とを考えていたと思ったけど、さっき、トライとこの星を回ってみたら、わかったんだ。

四角王      長官.私はあなたの提案を支持するよ。夢の湖をまもるために、トライには責任がある。

まん丸人   トライが生きて戻ってこられるとは限らないじゃあないですか。

三角王    命を懸けてもらわなければ、我がかたち星雲の命だってかかっているんですぞ。

長 官      トライ。いいか。おまえは、これから直ちに地球にいって、こいつらが何をたくらんでいる

かしっかりと見て来るんだ。そして、なぜ、夢の湖の地図が漏れたか、しっかり証拠を持っ

て帰れ。もし、おまえが持って帰らなかったり、生きて帰ってこなかったら、このまん丸

王も、おまえも宇宙に放り出す。文句はあるまい。二十四時間、一日の時間をおまえにやる

まん丸王の前にトライひざまずく

トライ      地球にいってきます。少し気付いていることもあるんです。

長  官    気付いているだと ?  証拠があるっていうんだな。面白い。

まんまる   私のことはかまうことはない。どんなことが有っても、私はおまえを信じているよ。

トライ    かならず、二十四時間以内に帰ってきます。

トライ、中央、滑り台の上に立つ。

トライ      二十四時間以内に必ず帰ってきます。みなさん。人を疑うのはやめてください。

信じてください。人を信じられないこの長官こそかわいそうなひとです。信じてください。

人を信じてください。

トライ、滑り台裏に消える。

長 官      何とでもほざけー。二十四時間後にはっきり解るんだよ。

幕降りる。

休 憩

第4幕 1景  破壊と夢

夢の湖舎  第1期工事完成記念秋祭り  の横断幕

祭り情緒たっぷり

よしえ、洋子  テントの中で仕出しの準備

お囃子が響いている。

御輿のかけ声もすこしづつ聞こえる。

洋 子    太郎帰ってきたんだって ?

よしえ    そう、だれに聞いた?

洋 子    寛ちゃんから。

よしえ    驚いたわよ。私も見にいったわよ。お御輿担いでるの、太郎が。

洋 子    へー ? 何してたんだって ?

よしえ    わかんないわよ。帰ってくるわよ、御輿。食べる用意食べる用意。

洋 子    どこいってたんだろうねえ半年も。

よしえ    へんなかぶり物つけた人を連れて帰って来てのよ。

「わっしょい」の掛け声近付く。

御輿。太郎、次郎、英一、寛治、茂雄らが担いで、客席後方より、舞台へ。上手下手より

大うちわを振って、トライ、その他の夢の湖舎々員登場。

祭り景気が盛り上がる。

舞台中央で御輿ねって終る。太郎が先導役をしている。トライも、遅ればせながら付いて

いる。

よしえ    御輿が帰て来たわよ。

次 郎    よーし、休憩休憩。みこしおろせー。

滑り台の脇に御輿を下ろす。

太郎の周囲に人だかり。

「本物だよ」「どこいってたんだ」「幽霊じゃあないよ」「何してたんだよ、心配掛けて

など

太鼓の音、お囃子、BGM。

トライは、あたりをしきりに見てあるく。

太郎の周りを囲む。

寛治        本物だよ。太郎だよ。

洋 子      ほんとに太郎だあ。どこいってたのよ。

よしえ    お帰り、長い間、どこに行ってたの  ?

次 郎    御輿かついでたら、急に割り込んでくる奴がいるんだよ。俺の棒だよ。とられてなるかって

思って隣を見たら太郎じゃあねえか。帰ったんなら、教えてくれりゃあいいいんだよ。

太 郎      時間がない。頼みがあるんだ。きいてくれないかなあ。

寛 治    (コップ酒を、太郎に渡しながら)まずは、乾杯、乾杯。飲もう、飲もう。

よしえ    お帰り、太郎ちゃん。どこいってたの。隠れなくっちゃあいけないようなことをしてたの。

太 郎    かたち星雲って、銀河系の外れの星にタイムスリップしてしまったんだ。

その星はねえ、夢の湖舎そのものなんだ。いってることがわからないと思うけど、

僕たちが造りたいと思っているものがそのまま。この地図と全く同じにできているんだ。

今僕たちが計画してるだろ、香水工場作りたいとか、ケイマンゴルフ場作りたいとか・・・。

みんなあるんだ。

次 郎    相変わらずとんちんかんだねえ。おい、おい、今日はお祭りなんだ。面倒な話は抜き、抜き

寛 治    いいんじゃないか。長い間、全国を流れ歩いていたんだろ?多分そんなところだろうよ。

少しは頭が変になってるさ。

洋 子    ちゃんと謝りなさいよ。みんなに心配かけたんだから……。

太 郎    この人、かたち星雲のまん丸王国から来たトライって言う人。紹介するよ。

トライ      トライです。宜しく。

一同まだ不思議そうにトライを見る。トライは太郎に地図を渡してもらい地図を見ながら

いろいろ確かめる。その様子を一同不思議そうに追いかける。

太 郎      タイムスリップしたことを信じてくれなくてもいいよ。だけど、トライが証拠を持って帰ら

ないと、まん丸王の命がなくなるんだ。二十四時間しかないんだ。

よしえ      いい加減にしなさい。滑ってはいけない滑り台をこっそり滑って約束を破り、突然帰って来

るなり、でたらめなことを口走って、これ以上、みんなを困らせるのはやめなさい。

まず、最初に、十年も雲隠れしていたことを謝りなさいって言いたいわ。

太 郎      十年?  十年も僕がいなかった・・・?

寛 治    しつこいよ、よしえ。まず、乾杯だ。戻ってきてくれたからそれでいいじゃあない、祭りだ

乾杯、太郎が戻った、さあ、乾杯。

よしえを除いた一同、コップを持って 乾杯をしようとする。

太 郎    僕が滑り台を滑ったのは、さっきだ、いや、正確には昨日と言った方がいいのかもしれない

次 郎      じゃあ、おまえの来てるシャツは十年前のまんまかい ?  くっせえなあ。

太 郎    みんなの掟を破って、滑り台を滑ったことは謝る。ごめん。時間がないんだ。十分説明でき

ないけど、トライを助けてあげて欲しいんだ。

トライ    私たちの星には夢の湖があります。(看板を指さし見て)ここは夢の湖舎って言うんですね

不思議なことに、ログハウスのかたちも大きさも、全く同じだし、滑り台、ラベンダーの花

畑の位置も大きさも全く。僕の直感だけど、多分、君たち地球の未来星が、僕たちの星だ。

洋 子      未来星 ?

トライ      僕たちの星は、いろんな星の未来の姿を示しているらしい。明亜そういってるんだけど。誰

もそれを知らない。でも、間違いなさそうだ。かたち星雲は地球の未来星だったんだ。

太 郎      だから、かたち星雲へタイムスリップしたのか。

洋 子    へんてこりんが、二人そろってへんてこりんを言うから、私もへんてこりんになっちゃった

トライ     君は十年ここから消えていたっていわれたね。だったら、かたち星雲は地球の十年先の姿か

もしれない。

太 郎     うん、そういうことかな。僕が消えたのは、ほんの少し前の気がするけど。

一同、二人の会話を不思議そうに見入る。

よしえ      田舎芝居はおやめなさい。十年も姿を見せないで、みんなに迷惑をかけたんだよ。その上に

また、混乱させるようないい加減なことを言わないで頂戴。

洋 子    そのとおり。

寛 治    飲もうぜ 祭りじゃあねえか。みんな。お祭りお祭り。

よしえ     調子にのせないで。

次 郎      おおこわー。

よしえ    はっきりさせるべきものははっきりさせなくてはいけないの。

トライさんとか言いましたね。

あなたは本当に、その未来の星とかと言うところからタイムスリップして来たのですか。

トライ    そのとおりです。

よしえ      それを証明してください。

トライ      僕と、太郎を信用してください。

太 郎      トライは、証拠を持って帰らないと、かたち星雲のみんなから信頼されなくなるんだ。

よしえ      太郎は黙って。

トライ    僕たちの星には、人間に夢を与える「夢の湖」があり、そこを夢の駅、夢ステーションと呼

んでいます。

寛 治      夢の駅。夢ステーション。おんなじような名前なんだ。

トライ    太郎が夢の湖舎の地図を持ってた。それが、夢ステーションの地図と全く同じだったのです

そりゃあそのはずだ。僕たちの星は地球の未来星だったんだからね。誰も気づくはずがない

さ。だから太郎は、夢の湖を盗みにきたスパイと間違えられたんだ。

運が悪いことに、今、我が星始まって以来初めての大統領選挙の真っ最中だったんです。だ

からよけい、ぴりぴりしてたし・・・。

よしえ    悪いけど私は疑り深くなってしまったの。太郎が消えてしまってから、人を信じることがで

きなくなってしまったわ。だって、夢の湖舎を作ろうって言い出した張本人が私たちを置き

去りにしたんだからね

太 郎      タイムスリップしたっていってんだろう。

次 郎      怒ることないだろう。おまえの方が悪いんだ。あやまっとけよ。

洋 子      あんただって悪いんだよ。滑り台を勝手に滑った仲間だろ。金魚にうんこだよ。

トライ      信じていただかなくても、今は結構です。未来星だっていうことが解ったから急いで帰りま

す。

太 郎      そうだね。急いでかえったほうがいい。証拠品は ?

トライ      証拠なんかいらないさ。僕が証人だ。ここにタイムスリップして見たことを報告すればいい

どのくらい地球にいたんだろうか。

太 郎      君の星の時計では、24時間はすぎたかもしれないね。

トライ      いそいでかえるよ。うん。

トライと太郎だけ、話が通じる。

きょとんとする一同。

二人が立ち去ろうとして、握手し、別れを惜しむ様子。

よしえ      待って。帰っていただいてはこまるわ。あなた方二人だけわかっていて、私たちには何もわ

からないわ。ふりまわされただけじゃあないの。

寛 治      そうだ。帰らすわけにはいかないよ。

太 郎      説明は後からするさ、お願いだ。トライだけはかたち星雲に帰させて上げてくれ。

寛 治      太郎は信用できん。この人がいなかったら話にならん。

トライ      私が、二十四時間以内戻ることをまん丸王は信じてくれています。

おそらく、もう、二十四時間は過ぎてしまった。王様は、宇宙に放り出されてしまったと思

います。

太 郎      死んじゃったの。

トライ      多分。僕が戻ってくることを絶対に最後まで信じている人です。あの方は、人を疑うことを

知らない人です。だから、僕もあの方を信じ、何があっても、できるだけ早く帰らねばなり

ません。

よしえ      悪いけど、私は太郎は信用しない。だから、あなたも信用できない。

寛 治      俺もだ。

洋 子      当然ね。私もだめ。

トライ      かたち星雲に戻ったあと、必ずここに戻ってきます。

太 郎      どうして戻ってこられるの。約束の時間を過ぎたはずだよ。宇宙に放り出されるんだろう。

次 郎      死んじゃうってわけ  ?

トライ      そうです。でも、必ず戻ってきます。

洋 子      そうですって、あなた、死んだら、おしまいでしょう。

トライ      必ず、戻ってきます。だから、太郎を信じてあげてください。お願いです。

寛 治      そりゃあ  誰だって信じたいよ。十年も消えていて、突然出てきて、本当言うとお化けと話

してるような感じだよ。信じろと言うのが無理だよ。

トライ      いきます。そして、すぐに、戻ってきます。

夢を持って、みなさん。この夢の湖舎は、成功します。みなさんの願った通りのものが順番

にできています。だって、夢の湖舎と、夢ステーションは同じものなんです。さようなら。

トライ  中央滑り台の後ろより消える。

寛治、次郎、いかせまいとして後を追う。

太郎、トライを見送ろうとするもトライの方が素早く消える。

よしえ、トライの言葉を信じたい。太郎を許せない。

洋子、一歩遅れて、寛治たちを追う。

次 郎      逃げ足の早い野郎だ。滑り台で消えちゃったよ。

太 郎      タイムスリップしたんだ。

次 郎      夢の湖舎と、あいつの星の夢ステーションがは同じだと言ったな。俺たちの夢は全部実現し

てるって言ったよな。

洋 子      言った言った。

次 郎      だったら、このまま何にもしなくても、夢は実現するって訳だよ。

洋 子      何もしなくったって、いいわけ?

寛 治    そんなはずはないだろう。何かしなくちゃあ。

次 郎      でも、十年後の夢の湖は、夢ステーションとして立派にできあがっているんだ。

太 郎      そう。かたち星雲にいくと、ケイマンゴルフ場も、ガラスの香水工場も、ホプリの工場もみ

んな完成してるんだ。

よしえ      だったら、こんなログハウスや、世界一長い滑り台や、ちっぽけなラベンダー畑なんかぶっ

こわせばいいのよ。

よしえ、近くにあった棒きれを持ってガラス窓を割る。

寛 治       何すんだよ。

寛治、よしえの持っている棒を取り上げようとするがはらわれる。

よしえ      壊せばいいのよ。私たちはこれまで夢を持って生きてきたわ。夢があるからみんなでがんば

ってきたわ。ほっといても、夢が実現するんだったら、何もしないで、歌を歌ったりお酒飲

んだりして毎日馬鹿騒ぎすればいいでしょ。

よしえ、棒を振り回す。

太 郎      やめてくれ 。  壊すのはやめてくれ。

よしえ      あんたなんかに、壊すなって言う権利ないわよ。何を太郎は作ったわけ。口だけじゃあない

の。汗流したの ?  一緒に土運んだり、根っこを掘ったりしたって言うわけ  ?

何も汗流さないで、ここまで夢の湖舎ができてきたって言うの。

やめてーっ。

夢なんかどうしてみたのよ。

どうして一緒に、夢の湖舎を繕うなんて言い出したのよ。

よしえ、辺り構わず壊し始める。寛治止めようとする。

洋 子      壊したって。夢は実現できるんだから、壊しちゃっていいのよね。

よしえの棒をつかんでいる寛治

寛 治      馬鹿言うな。これまで十年間俺たちが必死に作ってきたんだぞ。

次 郎      壊したっていいんだよ。どうせ、十年後夢ステーションだよ。壊せ壊せ。

次郎、「こわせ、こわせ」。洋子「わーっ楽しい。壊すって楽しいねえ。」

二人を止めようとする寛治

よしえ、「壊れたらいいんだ。壊れたらいいんだ」を繰り返し、棒で、壊し始める。

次郎を押し止めようとする寛治。止めようとする太郎。それに殴りかかる次郎、寛治。

破壊つくし疲れ果てる。

BGM  「おしまいね」

寛 治    どんなに意見が違っても、相手を足で踏みにじるようなことだけはしなかったじゃあないか

洋 子    夢をみて、その夢が実現できるといいねって集まった仲間じゃなかったの。

おしまいね

かなしい時 かなしい

つらい時に たすけて

すなおに そういって   心休めればよかったのに

まる さんかく しかく  それぞれ ちがいがあるけれど

ちがうところをかくにんし ちがいをみとめれば それでいい

まる さんかく しかく  ちがいがあるから  それでいい

うれしいから うれしい  かなしいから かなしい

すなおに そういって  心休めればよかったのに

おしまい もう おしまいね

膝を抱えて座り 「・おしまい」歌い終わる。

メロディーは続く。

やがて、よしえ。壊れたいすのかけらをひろいう集め出す。

寛治、洋子の順に片付けを開始する。

次郎、太郎、膝を亜抱えたまま。

中央部分に蛍火一つ輝いているが気付かない。次第に黙々と片付けが進む。

明りが鮮やかになる。

よしえ 「祝 第1期工事完成記念秋祭り」のたれ幕を探し引き伸ばしだす。

次郎、起きあがり、よしえに問いかける。

太郎も片づけをはじめる。

次 郎     夢の湖舎はどうなるの ?

だれもなにも答えず、黙々と片付けをしている。

蛍火点滅している。

次 郎    ねえ、夢の湖舎をどうするの ?

よしえ    あなたが自分で決めるのよ。

よしえ、たれ幕を次郎に端を持たせて伸ばして見る。

次 郎    記念の秋祭りが、(間) 夢の湖舎の解散式になるのかよう !

よしえ、たれ幕を次郎手を借りたたみ始める。

次 郎    僕たち1人じゃあ なんにも できないじゃあないか。

だれもなにも答えず、黙々と片付けをしている。

次 郎    なにも、僕にはできないと思ってた昔。(間)僕にもなにかできる。(間)少しでも、でき

るって教えてくれたのがみんななんだ。

よしえ      そうよ。(間)誰か1人が夢を見る。 (間)また、1人 夢を見る。(間)みんな夢の中

に生       きてきたのよ。(間)夢の湖でしょ

(間)生きてるぞって、叫びたいから (間) 夢を見るんでしょ !

「夢の湖」 テーマソング

一人ずつが壊れたガラスをはめたり、修復作業をいつの間にか始めている。建設に向

かう意識を示し始める。

蛍が舞う。

洋 子      わーっ  蛍だー。

よしえ      トライだ。約束を守って、戻ってきたんだ。

夢の湖 テーマソング

1人ではなにもできないけど だれかひとりが はじめるんだ

1つのしずくポツンとおちて そこからみずが 生まれ出たよ

できないことって なにもない

あなたがいるから 私はいきる

ほら ほら ほら

そこにも ここにも 夢 夢 夢

夢をえがいた時から 夢はもうかなっている

夢をおいはじめた時 夢はもうかなっている

夢にいきることを楽しもうよ

夢にいきることを喜ぼうよ

ほら ほら ほら

そこにも ここにも 夢 夢 夢

あちらこちらに蛍火。

幕降りる。

カーテンコール

みんなは ひとつ

遠くの空に    小石を投げた

みんなが一つ   小石を一つ

おーいおいでよ  遊ぼうよ

手と手をつないで 遊ぼうよ

子どもと子ども  大人と子ども

みんなは一つ     強いぞ一つ

おーいおいでよ   歌おうよ

肩組み輪になり  歌おうよ

疲れた時は    みんなを呼ぼう

みんなで一つ     いつでも一つ

おーいおいでよ   走ろうよ

手と手をつないで 走ろうよ

おーいおいでよ  走ろうよ

手と手をつないで走ろうよ

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